商業施設だって伝承している

 僕がスタディツアーにはまったのは、(というかはまる前にコロナの流行が始まって中止が相次いだわけだけど)2019年冬にJTB主宰のスタディツアーに参加し、薄磯地区の語り部の話を聞いたり小名浜魚市場を見学してからだ。たまたまというか、当時、観光物産センター「いわきら・ら・みゅう」というショッピングモールでは震災関連の展示をしていて、僕も見る機会があった。

 ら・ら・みゅうで記憶に残ったのは、避難所での居住空間を再現したコーナーだった。下の写真がそう。段ボールで仕切られた、人間一人が寝起きするだけのぎりぎり与えられた空間。想像で、ここに自分の身体を横たえてほしい。どんな気分がするものか考えてほしい。避難直後は女性のための着替え場所もなかった。老人も用を足すには屋外の仮設トイレを利用するしかなかった。夜も。寒い日も。それらは徐々に改善されたらしいが。

 伝承するとは、身体感覚に訴えることだ。もっと言うと、人に「なかった記憶」を植え付けるものだ。実感がなければ伝わらない。

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 避難所を大別すると、段ボールで仕切りを作ったプライバシー重視の所と、仕切りのないコミュニケーション重視の所に分けられる。僕はいわき市の避難所を慰問ボランティアで回ったことがるのでその両方を見てきた。ら・ら・みゅうで再現したのは平体育館のものだと思う。僕が活動していた時期と下写真の撮影日が重なるので、僕も当時を思い出して胸が苦しくなった。会話を交わした人達一人一人の顔が蘇った。

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 下写真の避難所は仕切りのない開放型で、避難者の表情がよく見える。

 ところで、あなたがもしテレビのディレクターだったとして、芸能人を連れて番組を作るとしたら、上と下、どちらの避難所を選ぶだろう。視聴率を気にするなら下を選ぶはずだ。実際、そうだった。芸能人が訪問し、その様子が放映された避難所には支援物資が集まった。もちろん善意でのことだから批判するつもりは毛頭ない。僕が訪れた時、下のタイプの避難所には食料や生活物資が山と積まれていた。それが悪いと言うわけではないけど、メディアが避難所格差を広げてしまった事実を知って欲しかった。

 実際、僕がどちらかを選べと言われたら(当時、選ぶだけの余裕は被災者にはなかった。あくまで架空の話)、多少の不便はあってもプライバシー重視を選ぶと思うけど。

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 下の写真も紹介しておきたい。いわき市久ノ浜地区。海岸の目と鼻の先にあった街だ。ここでは津波の猛威に加えて工場の火災も起きた。被災から一月半後に僕が訪れた時、生臭さと重油の匂いがまだ漂っていた。その匂いまで一枚の写真で蘇った。左の写真は遭難者捜索の場面だろう。警察官の緊張が伝わってくる。

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